基本のリーフケミストリーの謎を解く

いつものように海外フォーラムをブラウジングしていると、目から鱗がボロボロこぼれ落ちまくる動画を発見し、思わず食い入るように見てしまいました。

 

こちらがその動画です。リーフタンクでサンゴを飼育するために必要なカルシウム、アルカリ、マグネシウムについて説明しているのですが、ちょっと他では聞かれない、こういうことだったのか!が分かる内容です。ごめんなさい、サンゴ飼育に関心のない人には、全く意味をなさない内容です。

 

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Lou Ekusという人が、MACNA 2019でレクチャーをした動画ですが、そのタイトルは "BASIC REEF CHEMISTRY - DEMYSTIFIED"「基本のリーフケミストリーの謎を解く」ですが、YouTube動画には別のタイトルがついていて、"Reef aquarium chemistry can be pretty easy and fun...No, really"「リーフタンクのケミストリーは、とっても簡単で楽しいかも♪ 、、、まじで!」となっています。

 

13:40 カルシウムとアルカリはシーソー関係にあり、どちらかを上げれば、どちらかが下がる。しかし、マグネシウム、またはリン酸を増やすことで、両方の数値を同時に上げることができる(そのメカニズムが後で詳しく説明されます)。

 

16:00 2パートメソッド(ボーリングメソッド:アルカリとカルシウムをそれぞれ添加することで、サンゴの骨格形成に必要な元素を補う方法)は、やり方次第では、有効でない場合がある。

 

通常、2パートのAに塩化カルシウム、Bに炭酸ナトリウム(または重炭酸ナトリウム)が入っていて、この2つが褐虫藻の力を借りて結合すると、炭酸カルシウムとなり、骨格が形成される。この結合(カルシウムと炭酸)の結果、残された塩化化合物とナトリウムが結合して、塩化ナトリウムとなる。

 

この塩化ナトリウムは、海水の約7割を占めている、いわゆる塩で、残りの3割がサンゴの必要とする微量元素である。2パート(ボーリングメソッド)で、カルシウムをどんどん供給し続けると、カルシウムの結晶化に伴って残される塩化ナトリウムの割合がどんどん増えてしまう。当然、塩分濃度が上がるので、足し水で希釈し、塩分濃度を調整すると、7割の塩だけでなく、主にサンゴが必要とする3割の微量元素も薄まるので、微量元素の比率がどんどん下がって行く。

 

なので、ボーリングメソッドでは、2パート(パートAとパートB)以外に、もう一つの液体(パートC)を使ってこの3割の微量元素の比率が下がらないように調整しているので、水槽のバランスを崩さないためには、ボーリングメソッドの基本にのっとって、微量元素を添加してあげないといけない。

 

25:25 通常、塩化カルシウムと炭酸ナトリウムが結合して結晶化することで骨格が形成されるが、炭酸ナトリウムの代わりに、リン酸塩が塩化カルシウムと結合してしまうと、炭酸ナトリウムが結合できないまま残される。このため、リン酸塩が高いと、試薬上は、塩化カルシウムと炭酸ナトリウムの両方(CaとdKH)の両方が高く検出される(シーソーのバランスが取れている)ことになるが、実際には、結晶化はうまく行っていない(これが、リン酸塩が高すぎると、サンゴの骨格形成が阻害される原因です!)。

 

27:55 マグネシウム濃度が高いと、マグネシウムと炭酸ナトリウムが結合するので、試薬上は、塩化カルシウムと炭酸ナトリウム(CaとdKH)の両方が高く維持されていることになる。しかし、マグネシウムと結合した炭酸ナトリウム(アルカリ)は、骨格形成のための結晶化に使われることができないので、マグネシウム添加によって、カルシウムとアルカリの両方が同時に数値が上がって見えるのは、表面上のことである。

 

30:50 カーボンドーシング(炭素源添加)は、栄養塩を下げるためのものと思っている人が多いが、実は、炭素源による栄養塩の低下は、副産物的な効果であって、炭素源は、別の、もっと重要な効果をもたらしている。

 

サンゴのポリプは、硝酸塩を減らす優れたメカニズムを持っているが、リン酸塩を減らすことは、あまりできない。しかし、善玉菌(有益なバクテリア)は、リン酸塩をたっぷり食べる。そのバクテリアを、ポリプがたっぷり食べる。結果として、サンゴは必要なリン酸塩を摂取することで成長し、同時に硝酸塩を減らしている。なので、炭素源のすごいところは、大量換水によってリン酸塩を減らすのとは違って、サンゴに必要なリン酸塩をバクテリアを介して食べさせて成長を促し、同時にリン酸塩と硝酸塩を下げられることである。

 

こんな内容です。本当はもっと色々なことが語られているのですが、省略しています。

 

これを見て、衝撃的な事実が分かりました。無換水でSPSを飼育するなど、キング・オブ・バカ!ってことです。

 

自分のタンクでは、マグネシウムを利用して、シーソー関係にあるカルシウムとアルカリのバランスを取りながら、サンゴにカルシウムを供給しているわけですが、炭酸カルシウムの生成の過程で、大量の塩化ナトリウム(いわゆる塩分)が発生し、タンク内の塩化ナトリウム 対 必要微量元素の比率を、激しく塩化ナトリウム側に偏らせていることになります。それを補うために、プロコーラルミネラルを添加していますが、添加量が多すぎるのか少なすぎるのかが分かりません。いずれにしても、自然なミネラルバランスからは、徐々に、しかし確実に逸脱して行くことは避けられません。

 

ベストなミネラルバランスを維持するには、換水しかないし、極端に言ったら、換水を行っても、ボーリングメソッドによって外部からカルシウム添加を行っている限りは、長期の間には、おそらく崩れて行くはずだと思います。この点だけで考えると、ボーリングメソッドよりも、カルシウムリアクターの方が優れていると思います。というか、このレクチャー、それとなく、ボーリングメソッドよりもカルシウムリアクターの方が良いって、遠回しに言っちゃってないか?と思えるほどです。

 

ボーリングメソッドを行う場合は、定期的に水質検査に出し、ミネラルが逸脱していないかを確認した方が良いかもしれません。それか、どこかのタイミングで、ハンパない換水を実施して補正するとかですね。いわゆる、リセットというやつでしょうか。しかし水が仕上がるまでに数か月かかることを考えると、リセットはちょっと気が重いです。

 

それと、炭素源添加についてですが、なんとびっくり!サンゴは大量のバクテリアを摂取することで、間接的にリン酸塩を食べていたんですね。少し前の、このブログの記事で、ミドリイシバクテリアを食べるのだろうか?と推測してみた話を書いてみましたが、ホントにバクテリアを食べていたんですね!しかも大量に!

 

海外フォーラムで、「カーボンドーシング(炭素源添加)してるよ。栄養塩を下げるためじゃなく、生物相の充実のためにね」と言っていた人がいましたが、炭素源添加は、サンゴへの栄養供給の仕組みを水槽内に作るのが主な仕事で、リン酸塩の低減は、副次的効果だったんですね。ミドリイシが健康になって、栄養塩が下がるなんて、理想的です。

 

というわけで、リン酸塩って、多すぎるとミドリイシの骨格形成を阻害しちゃうけど、ゼロだとミドリイシの栄養が欠乏しちゃう、っていうことらしいですね。

 

昔は、ミドリイシは清浄な水に住む生き物だから、栄養塩は極力ゼロに近い方が良いんじゃない?って思ってましたが、ゼロではいけないという、ちゃんとした理屈があったんですね。

 

そう考えると、リン酸塩を適正値に入れるために、鬼のように換水するとか、給餌量を減らすとかっていうのは、どうなんだろう?と思えてきます。良いとか悪いとかではなく、適度である必要があるのと、もう一つ、積極的に給餌してバクテリアを増やし、それを食べさせる、っていう、炭素源添加のオプションを見直してみても良いかもですよね。

 

というわけで、我が家の飼育法を変更します。無換水のSPS飼育チャレンジは、これにて終了です!この理屈が分かっちゃうと、無換水なんて、バカ中のバカ、本物のバカ、バカの王様でしかないです。明日から毎日換水します!ウォッカドーシングは続けますし、もしかしたらドーシング量を増やして、同時に給餌量も増やすかも。